英語は難しくない!大人のための最短英語学習法

忙しい大人のための効率的な英語学習法について書いていきます。

シュリーマンが外国語を習得するときに最も大切にした勉強法とは?

 
外国語の本を覚え始める段階ですが、おそらく習得期間の後半から開始したのではないかと思われます。
というのも、英語の場合は半年かけて習得したのですが、散文の暗記についての記述があるのが3ヵ月後だからです。
実際には本を読んでみて、ある程度意味がわかるかどうかの判断をしたと思います。

この本を暗誦して丸覚えする方法には、3つの目的があると思われます。

1.語彙やアクセント、頻出表現を覚えこんでしまう
2.文法判定回路、文脈理解回路を脳の中に作り上げる
3.外国語を使う肉体に鍛え上げる

脳科学の研究によって、人間の脳の中には「単語」「アクセント」「文法」「理解」の4つの言語に関するエリア(言語野)が存在することがわかってきました。

 

 

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この4つを詳しく説明します。

  • 単語・・・単語・イディオムなど、いわゆる知識に分類されるものを格納するエリア。
  • アクセント・・・アクセントや音程、強弱など音声に関するものを処理するエリア。
  • 文法・・・インプットされたデータを統合的に処理するエリア。 アウトプットするデータもここを通過する。
  • 理解・・・インプットされた言語情報を理解するエリア。 思考・判断などもこのエリアを通じて行われると思われる。


「文法」というと、「英文法」などを思い浮かべてしまいますが、ここでは「英文法」は知識にあたりますので、「単語」エリアの範疇になります。
「文法」エリアでの活動の例を言えば、「この文章はちょっと変だな」とか「普通こういう表現はしないよ」というような感覚的な判断を行ったりしています。

ちなみにこれら言語野は、利き手の反対側に存在していることが多いとされています。
結果として、90%以上の人が左半球に言語野を持つわけですが、これは俗説にある左脳・右脳論とは関係ありません。

まだまだ機能的に完全に解明されているわけではありませんが、大体このような機能がそれぞれのエリアに分布しているということがわかっています。

ここで理解しておいて欲しいのは、一部分だけを鍛えても、それだけで外国語をマスターできるわけではないということです。

少し長くなりましたので、「本を暗誦して丸覚えする方法」の目的をもう一度見てみましょう。

  1. 語彙やアクセント、頻出表現を覚えこんでしまう
  2. 文法判定回路、文脈理解回路を脳の中に作り上げる
  3. 外国語を使う肉体に鍛え上げる


1.については、文字通りですので、特に説明は不要だと思います。
既に「単語表」を使って、基礎的な訓練がなされていますが、本を丸覚えすることで、さらにその上乗せをしていくというわけです。
特に、暗誦によって文脈に沿った発音を行いますが、これは短文の暗誦だけではできないことです。

次の2.ですが、私はこれが特に重要だと考えます。
ここでは有名な作家の書いた大量の外国語の文章を完全に自分のものにしていくわけですが、単に「聞ける読める」だけではなく、自分自身でも「話せる書ける」ようにならなければなりません。

実際には本の暗誦だけなので「話せる」ところまでしかやりません。

しかし、その前の単語表で「書ける」ようになる訓練を十分に積んでいますし、ふんだんに日記を書いたりもしています。
ここでは時間節約のため、暗誦のみに止めたのでしょう。

私の話で恐縮ですが、自分で「話せる書ける」ように練習するだけで、ネイティブのような言語感覚を養うことが可能なことがわかっています。

私は学習者から、「TOEIC を受けた時、理由はわからないけれど、正しい答えがわ
かった」という不思議な報告がされることがあります。
細かい文法も知らないのに、なぜか TOEIC などで高得点を取ることができたというのです。

もちろんこれには理由があって、英語の頻出表現を丸覚えして、自分でも完全に書けるようになるまで練習するので、脳の中に「文法」判定回路ができてしまうのです。

ただし、この方法では語彙数が抑えられていますので、シュリーマンの語学習得法にはかないません。
それでも、これだけの効果があるというのが、実証されているわけです。

同じことを、より大量の文章を使って、シュリーマンは練習をしたわけです。

さらに、ネイティブと同じスピードで話すわけですから、脳の中の「文法」判定回路、文脈「理解」回路も同じ速度で動かなければならないわけです。

これがどれだけの効果をもたらすか、わかるでしょうか。

語彙も単語表で十分に鍛えられていて、頭に入っている文章は一流の有名作家の本のものです。
それらをネイティブと同じ速度で使いこなすことができるようになっているわけです。

その後の訓練にもよりますが、場合によってはネイティブを凌ぐ語学力を身につけることにつながります。
実際、シュリーマンは、発掘予定地の住民たちに、彼らの歴史、彼らの知らない物語を彼らの言葉で暗誦して聞かせて感謝されています。

最後の「3.外国語を使う肉体に鍛え上げる」ですが、これは実践するとわかると思います。
私も英語しか、それも大して練習したことはないのですが、外国語を話すと口が疲れます。
普段使わない筋肉を使っているからです。

日本語でもそうですが、よく話す人というのは、口周りからあごにかけての筋肉が発達します。
大きな声を出す人は、腹筋なども鍛えられるそうです。

友人のボイス・トレーナーに聞いたのですが、舞台俳優でよく稽古をしている人は、見るだけで区別がつくそうです。
それだけ、話すということは筋肉を使うものだそうです。

これを外国語でやった場合、当然唇から喉までの使い方がかなり異なるわけですから、慣れないうちは非常に疲れるわけです。
しかもこれを毎日、本を覚えられるだけの訓練をしたとすれば、相当なものだと思います。

私は英語教材の執筆者に聞いたのですが、コミュニケーションの研究者によれば、先進国の成人が1日に話す時間は、平均で1日10分程度だそうです。

1時間暗誦の訓練をすれば、ネイティブが日常で話す量の平均6倍になります。

しかも文章を記憶しながら行いますので、記憶力を鍛える=脳を鍛えることにもなるわけです。

この3つの目的を達成すれば、どのようなことが起こるのでしょうか。

もちろん、その外国語をマスターすることができます。
さらに、単に「聞ける話せる」といったレベルではなく、「聞き流し」ができるようになるのです。

よく「相手の話が理解できない」と言いますが、これは母国語でも発生することです。
逆に、相手の話している内容を自分がよく知っている場合、初出の事項だけに意識を絞っていればいいのです。
つまり、「聞き流し」ができるのです。

この結果、場合によっては相手の言うことを予測することさえ可能になります。

本を2冊暗誦して丸暗記すること、つまり、できるだけ多くの単語や文章を使いこなす力がつけば、相手の話を「聞き取る」だけではなく、深く「理解する」ことができるのです。

ここまで見てきたように、私の分析は後付けになるのですが、ある程度理論付けも可能でしたし、メリットも明確に挙げることができました。

もちろん、シュリーマンがこれらのことを知っていたわけがありません。
特にこの外国語習得法を考えた時は、自分では理論的な理由があったかもしれませんが、確固たる根拠のない状態だったでしょう。

それでも、この本を2冊丸暗記する手法を継続したのは、彼が実際に外国語を使う時=ビジネスでの会話や通信文をやり取りする時、明らかなメリットがあったからだと思います。
それは、私が先に挙げた、相手の話を推測し、深く理解するレベルにまで影響をもたらしたからだと思います。

また、シュリーマンが外国語の本を覚える効能は、こんなところにもあったようです。

“単語をより確実に刻み付けるために古代ギリシアの作家の文章を読み、その言葉を生き ている言葉であるかのように何回も心の中で繰り返した。『イリアス』と『オデュッセイア』を 数回読んだ。「誰かが私のギリシア語が間違っていると言ったなら、私が使った文章が 書かれている古典の一節を即座に暗唱して私が正しいと証明することができる」と彼は 誇った。”
(『トロイアの秘宝』p74)

 

単語の暗記を確実にする効能があるのはよくわかります。

しかし、ネイティブを含んだ他人に、自分の使う外国語が正しいことを証明するというのは、必要があることなのでしょうか。

実は、私も英語の教材の作成に関わったことがあるので、思い当たる話です。

教材作成時に、ネイティブから「これはあまり使わない表現だ」とか「これは見たことがない単語だ」という指摘をされることがあります。

一緒にいる通訳の人は、「ネイティブが言うんだから訂正した方がいい」という提案をするのですが、私は「これは辞書にも載っている単語だから、あなたが知らないだけだ」といった反論をするのです。

実際はそんな強気なことを言う前に、ちょっと打診するのです。

すると、「自分も全てを知っているわけじゃないからね」と譲ってきます。

彼らもネイティブというだけで言語学者や作家ではありませんから、特に教育を受けた専門分野以外ではせいぜい大学卒レベルの語彙数しかないのです。

特に外国語がわからない相手には、大した根拠もなく、いい加減なことを言う人もいるので、注意が必要です。
(古代ギリシア語などは別として、通常専門家の校正も経ている)有名な作家の作品を覚えることには、こういった効能もあるのです。

最初シュリーマンがこのことを意識していたのかどうかわかりません。

しかし、1人でロシア語を覚えなければならなかった時には、この効果に大いに期待して、うまく役立てることができました。
その後、多くの外国語を習得するうちに、実体験として、ますますこの本を丸覚えするというやり方に自信を持ったことだと思います。

私も時に、自分の引用できる確固たる知識がもっと多ければ、と思ったことがあります。
しかし、思ったからといってやらないところが、凡才たる私と天才シュリーマンの大きな違いだと思います。